successIPO (IPO準備会社を応援するブログ)

IPOコンサルタントをしている公認会計士が、IPOを目指している(又はこれから目指す)企業さんやIPO業界関係者の方にとって参考になる情報を提供していきます。

J-SOXは無駄なのか?

上場企業は、決算作業とともにJ-SOX対応もラストスパートの時期かと思います。

昨日(4月4日)の日経新聞朝刊に、J-SOXに関する興味深い記事がありましたので紹介します。
マーケット&総合面の『ガバナンスのコストを抑制せよ』(大機小機)というコラムです。

J-SOX対応や四半期開示などに膨大にコストを使っているものの費用対効果がどこまであるのかという問題提起の記事となっています。

詳細は、ぜひとも原文にあたって頂きたいと思いますが、以下抜粋です。


>>・・・・評判の悪さが指摘されているのは「日本版SOX法」に伴う内部統制である。そのコストはほとんど意味のないものだ。組織を疲弊させているといってもおかしくない。


>>・・・・書類を準備したり、情報を提供したりする為に膨大な時間と労力が払われている。費用便益計算をやり直すべきだろう。


記事を書かれた方は、J-SOXの制度そのものに対してかなり批判的なお考えのようです。

確かに、J-SOXの導入によって監査法人への報酬が大幅にアップするとともに、企業内部でのコスト負担(社内人員の工数・人件費や、システム対応、コンサル報酬など)も相当な(天文学的な)金額となっています。
本コラムでいう「費用便益計算」という意味では、私もこの状況については強い問題意識を持っています。
J-SOXが制度導入されたそもそもの趣旨は(米国SOXの影響でもありますが)、
企業が、投資家など各種利害関係者に「正確な財務諸表」を提供するために、会社の仕組みとして「財務報告の信頼性をより高める」ために内部統制を強化・充実させようということだったと理解しています。
つまり、「企業のため」という企業側の視点というよりは、「投資家保護などのため」という外部視点で、金融庁が法律として定める制度として(強制的に)J-SOXが生まれたということだったと思います(投資家保護は、間接的には、まわりまわって企業のためにもなるものではありますが・・・)。
投資家保護などのために、従来以上に「正確な財務諸表」が作成・開示されるようにすべきということは良いことだと思いますが、
現在実務で行われているJ-SOX対応は、「これ(文書化等)をやったことによって財務諸表の信頼性が一気に高まったと胸をはって言えるようなことなのだろうか?」とか「文書化や評価・運用プロセスに膨大なコストをかけることや、片っ端から社内業務に承認を求め、しかもその証跡を確実に残すことを現場に強要するような対応は、投資家など企業関係者が望んでいるものなのだろうか?」ということについて、まともに答えられるようなものではないように思えます。

財務報告の信頼性を高めることによって、投資家等の企業関係者を満足させることが、「財務報告に係る内部統制」の議論の本質のはずだったのに、企業としては「制度だから仕方ない」と渋々と対応をし、企業関係者は「コスト負担に見合う便益・効果を享受(実感)できず、それによって資金が流出し収益性が低下することはかえって迷惑」と考えているというような状況はいったい何なのだろうかと疑問に思えて仕方ありません。

IPOの現場でも、J-SOX対応は頭の痛いテーマです。
IPOのためのJ-SOX対応は、「いつまでに」、「どこまでを」ということ自体が、未だに実務では明確になっていません(上場企業における実務が完全に落ち着いていない状況でもあるため、監査法人も、証券会社もどうしても歯切れが悪い状況です)。
私も業務では、「IPOスケジュールを意識しながら、無駄ともいえる作業は省いて少しでも効率的にJ-SOX対応も進めていきましょう」ということで指導をしていくだけではありますが、、「このJ-SOX制度はこのままでよいのだろうか」というモヤモヤ感を抱きながらの対応になってしまうようにも思えます。

時価総額数兆円(数千億円規模の利益)というような超々大企業と、時価総額数十億円(数億円規模の利益)の新興市場企業に、同じようなことを求めるというのもどうかと思います
(「Q&A」などで中小企業用の簡便的な対応が少しだけ示されていますが、総論としては「大企業も新興企業も同じことが求められている」という理解でよいと思います)

ということで、なんらかの形でJ-SOX制度に見直しが行われることは私も期待したいと思います。


このテーマについてお考えお持ちの方おられましたら、是非コメントでも頂ければと思います。