successIPO (IPO準備会社を応援するブログ)

IPOコンサルタントをしている公認会計士が、IPOを目指している(又はこれから目指す)企業さんやIPO業界関係者の方にとって参考になる情報を提供していきます。

「IPO準備会社の中途採用」の難しさ(書類選考に関するアドバイス)

前回の「IPO準備会社の中途採用(経験者採用)」の難しさ の続きです。

IPO準備会社が、「IPO準備経験者」を探すというのは、かなり良くあることだと思います。
準備作業が上手く進んでいない場合、関係者(証券会社、監査法人、その他)から「IPO準備の経験者を採用した方がいいですよ」とアドバイスを受けることがあると思います。

そして、会社は「IPO準備経験者」を探すことになります。
探し方は、各種関係者からの直接紹介か、人材紹介会社を使うかのいずれかとなると思います。

まずは、書類選考です。

IPO準備経験者」というざっくりとした求人を出した場合に集まる人材の職務経歴書には、
・Ⅰの部作成
・Ⅱの部作成
・上場申請書類作成
・主幹事証券会社対応
監査法人対応
・VC対応
・社内諸規程の整備
・中期経営計画、予算策定
・資本政策策定
・増資、ストックオプション実務
・VCからの資金調達
・内部統制報告制度(J-SOX)対応
あたりの実務経験が書かれています。

書類選考を何とかクリヤーするために、積極的にアピールしているのだろうなぁと前向きに受け止めることにはしていますが、「この経歴や、在籍期間で本当にこれを経験したのかなぁ?」と疑問に思う書類も良く見かけます。

ひとつ気をつけなければいけないのは、『人材紹介会社は通常、職務経歴書の記載内容の真偽についてちゃんとした検証などはしていない』ということです。
「この人材は?の部作成を経験していますから」とか、「証券会社対応をやっていた人材です」のようなコトバで応募者の案内(推薦)がされますが、どの程度デキルのかについての検証はなされていないと思っておいた方がよいと思います。
勿論、通常の人材紹介会社は求職者の登録を受けるに当たってカウンセリング(面談)をしています。
が、IPO準備会社の人が応募者の能力・経験を上手く評価できないというのと同じで、人材紹介会社の方が、「IPO実務」の経験がどこまであるかについて評価できると思うほうが不自然です。

そして、次に気をつけなければいけないのは、『ちょこっと関与しただけで、立派な経験としてカウントされる』ということです。
上に挙げた各種項目は、ひとつひとつがかなり奥深い内容です。
例えば、Ⅰの部やⅡの部は、一人で作成するというものではなく、かなりの人数を巻き込んで作り上げていくIPO準備における重要な書類です。そのため、1つのIPO準備会社から「Ⅰの部、Ⅱの部作成経験者」が5人、10人名乗りをあげてもおかしくはありません。
以前、人材紹介会社の方から、『暫く前に上場した○○社にいる方で、「上場準備作業は自分が殆どやった」という方が我が社には2名求職登録されているんですよ』という話まで聞いたことがあります。
ひとつひとつの項目について、「自分でしっかりと纏め上げられる」という方(ホンモノ)と、「主体的にやったわけではないが、一部手伝った」という方(ニセモノ)が、職務経歴書においては似たような記載で見えてしまいますので要注意です。

あと、書類選考で見ているのは、転職回数や1社あたりの在籍年数です。
転職回数が多いことをもって即見送り(書類選考落選)とする会社もあるようですが、私は、IPO準備会社への中途採用については、『転職回数が多いというだけで即見送りにはしないほうがよいのでは』と思っています。
IPO準備会社では、未熟な管理体制を上場会社としての管理体制に変革させていく必要があります。出来上がった大企業での長期間勤続経験があるという人材(=転職回数は少ない)の場合、その人材がひとつの(その会社での)やり方しか考えが及ばない場合や、未熟な状況を受容れることができない場合などがあり、非常に未熟な状況から立て直していくという改革が上手くいかないケースも多くあるように感じます。
逆に、多くの会社で良い管理の方法・ダメな管理の方法を見てきている人材(=転職回数は多い)については、未熟な現状も受容れつつ、良い方法に導いていくようなことができる人材も中にはいるように思います。
そのため、あまり「転職回数」という数値には意味を持たせず、実質面で判断すればよいと思います。
転職回数が多くても構わないと言ったものの、あまりに回数多いのはそれだけで問題でしょうし、1社あたりの勤続年数が短い転職が続いている場合も当然マイナスです。また、職務経歴との関係で言えば、1年など短期間しか在籍していないのに「監査法人対応も証券会社対応も申請書類作成も中期経営計画策定もJ-SOXも経験した」と言われても、そんなのは大した経験ではないのだろうなと感じてしまいます。

いろいろ書きましたが、書類で人材の良し悪しを判断するのは限界があります。
そのため、これは明らかにダメだろうというのを落とすことに注力し、あとは面接で会ってみるしかないと思います。
前回も書きましたが、能力・経験も大事ですが、経営陣などとウマが合うかという要素がとても大切ですので、書類ベースで悪くなさそうであれば手広く面接をするしかないと思っています。
ということで、私が関与先会社の中途採用に関わる場合において、書類選考を手伝う場合には、「明らかに面接をしても時間のムダになるだろうなと思われる人材」を選別するということに徹しています。

次回「採用面接」編で完結の予定です。