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IPOコンサルタントをしている公認会計士が、IPOを目指している(又はこれから目指す)企業さんやIPO業界関係者の方にとって参考になる情報を提供していきます。

【特別寄稿】IPO関係者が支援すべきベンチャー企業選別の時代は来るのか?

本日の記事は私(管理人)による投稿ではありませんが、管理人が所属しているIPOコンサルティング会社、株式会社ラルクの代表取締役である鈴木からの【特別寄稿】という形で投稿させていただきますので、ご承知おきください(かなりの長文になります)。

以下、鈴木の記事になります。

 

【特別寄稿】IPO関係者が支援すべきベンチャー企業選別の時代は来るのか?

ここ数年、新興企業の中でもネット企業の勢いが増してきています。IPO関係者を中心に各証券会社は主幹事を拝命するため、また、監査法人は監査対象会社を獲得するために激しく競争を繰り広げています。IPOの環境が盛り上がってくるといつも起こるように、証券会社と監査法人の度を越した顧客獲得競争に端を発して、大きな弊害を生むことが危惧されるようになってきました。

業界の実情を最も知る私が、どこまでのことに触れるか迷いましたが、今の状況を好転させたいために勇気をもって書くことにしました。
以下に、メインプレイヤーである、主幹事証券会社と監査法人の上場準備会社に対して果たす役割の観点、上場希望会社、中でもネット企業自身の観点、最後に双方から生まれる問題点について考えてみたいと思います。

 

まずは、主幹事証券会社と監査法人から。
主幹事証券会社や監査法人のIPO準備会社に対する役割とはなんでしょうか。
よく上場準備指導と言いますが、最も重要なのは、上場するに相応しい企業になっているかの確認であり、そうなれる為の指導を十分行う事です。すなわち、上場後に向けた体制整備の重要性を十分説明し、理解できるまで説得する役割が重要なのです。
例えば、業界としては、特にネットベンチャー企業は当てはまりそうですが、会社設立の間もない時期は管理部の人数が少ないことが多く、管理部員一人が退職しただけでも上場後のタイムリーで正確な情報開示を株主に提供することが困難になる可能性が常にあります。その為、このような管理部員の少ない会社でも、上場後は急成長をすると期待して上場させると言うことなら、主幹事証券会社や監査法人としては、「急成長」すなわち規模が拡大した時でも開示対応が出来る体制確認や十分なコンプラ意識の確認が特に必要になります。出来るだけ、組織としてシステム(組織の仕組み)が出来ていることを運用実績を通して確認したいところです。これらは、取締役会の開催を含め月次の経営管理であったり、最低限でも組織に応じた規程の整備、JSOXは緩和されますので、内部監査などでの実態チェックなどの確認が必要だと言う事です。しかし、現在は、その当然の体制の確認の仕方がなおざり(適当)になっているように思います。

 

東京証券取引所のマザーズ市場は小粒の会社でも目指せる、今や世界的にも審査が緩い市場になりました。規模等の形式的な基準だけでなく、管理体制などの実質的な審査も緩くなっています。この為、上辺だけの審査になり易く問題は深刻になって来ました。
この背景のもと、次のような問題が起こっていると思われます。
①体制が出来ているかのようにカモフラージュしている事が見抜けないケース。
②体制が出来ていないのを見て見ぬふりをしているケース。
③体制が出来ていないが、出来ているように見せる方法を指導するケース。
今のこの時代でもカモフラージュ方法を説明するケースまであるようで驚きを隠せません。これらは、主幹事証券や監査法人の社数獲得競争だけでなく、獲得したのにこれらの説得に失敗した時に、他の証券会社や監査法人に変更されることを恐れる余りの目先の間違った対処法であり、弊害としか言いようがありません。IPO支援の主要なプレイヤーが、自ら新興市場育成に水を差すような問題を引き起こしかねない行動をしていることに危惧しています。 

 

次にネットベンチャーの上場希望会社に対してです。
管理部員が少ないネットベンチャーの上場企業が増えてきたこともあり、上場準備を経験したので審査感覚を理解していると思っている方が増えています。しかし、先で述べたように、緩い、甘い審査対応経験であり、また、上場準備の経験をしたと言っても、全般を見ている人はごく僅かで、上場準備の中の一部しか経験していない人たちが上場準備内容を良く理解していると勘違いしている方が増えてきました。(中には正確に理解している方もおられると思います。)
この経験ありと言う方々が、次の上場準備中の企業に転職したり、アドバイスをすることがあります。
アドバイスを受けた会社のCEOやCFOは都合の良いように解釈する傾向がありますので、問題を引き起す要因の一つになって来ています。

 

成長のためにスピードを重視する企業の中には、早期上場が重要であると考える事もあるでしょう。あながち間違いとは言えません。しかし、早期の上場に拘り過ぎて、上場企業として必要な開示体制が取れていない、又は、取れない可能性が高いのに、です。それよりも彼らの考える重要事項は、如何にすれば企業のバリュエーション(株式評価)を上げることが出来るかであり、上場後の開示対応はケセラセラ(成るように成るさ)とあまり関心が無いように思えます。また、彼らの中には短期で上場し、高いバリュエーションを自慢する人達がいるようです。これから上場を準備する企業のCEOやCFOの人達は、これらに感化されやすく事態を深刻にしています。
資本市場を通じて不特定の一般投資家から大切な資金を導入すると言う責任ある行為なのに、余りにも簡単に軽く考えているとしか思えない発想なのです。このような会社ほど強引に上場を実現したいと要求するケースがあるようです。

 

双方から生まれる問題について。
主幹事証券会社や監査法人、さらにネットベンチャー企業のCEOやCFOの方々の中には、本来の上場及び上場審査の趣旨を理解している人もいます。また、心ある人もいるはずです。主幹事証券会社、監査法人、ネットベンチャー企業の各競争が激しいのですが、本来は自分たちが意図して作った競争の流れではないかも知れません。しかし、いつの間にかその流れに逆らえず、体制に逆らえなくなり、無理な上場と思いつつ実行せざるを得ない土壌が出来てしまったのです。十分な役割が放棄され大問題になってしまっているのです。

 

今後を期待されるネットベンチャー企業の中には、設立初期より世界制覇を標榜している企業もあります。スピードを出しながらIPOで加速させようとストーリーを描いている企業もあります。日本としては本来はこれらの志向を持つ企業成長は大歓迎でしょう。しかし、これらの企業ほど、上記のように危惧される会社が多い傾向にあるので困るのです。主幹事証券会社や監査法人の甘い準備対応やネット企業の上場経験者たちが、イケイケどんどんの若いネット企業のCEOやCFOに甘くても上場審査に問題は起こらないと言う考えを助長しているのです。いや、問題意識すら持っていないような人たちを育てているのかも知れません。
しかし、カモフラージュが悪い事であることを理解していながら上場準備を進めている会社もあるでしょう。このような会社が世界に羽ばたくんだと、自信を持ち胸を張って言えるのでしょうか?これらの人たちが上場をしてしまい、上場希望のネットベンチャー企業に審査は甘いと経験談を言い触らし、証券会社や監査法人は仲間から外されるのを恐れ、言い負かされ、資本市場の崩壊につながるかも知れない行為を、それぞれの役割に目をつむり、リスク管理の無いまま進んでしまっているのは恐ろしいことです。問題が公になり、処分者(社)が出て、資本市場の信用を壊すところまで行かないと止まらないのでしょうね。IPOコンサルの中にも、本来できない事を実現させることが腕の見せどころだと勘違いしている人達もいるかも知れません。同業界の人間として恥ずかしい限りです。

 

審査を余りに柔軟性なく厳格にし、投資家保護を必要以上にする必要はないと思いますが、その前にもっと襟を正す必要があると思います。しかし、不祥事が起こるか、実態が表に出て誰かが問題にしないと証券会社も監査法人も襟を正せないのでしょうね。やっとIPOが盛り上がってきているのに、この時をIPO関係者は待ち望んでいたのに、自ら壊そうとしています。

 

どうも、悔しさが募る余り、同じような事を長々と書いてしまいました。
書きながらも念のためですが、全ての証券会社や監査法人の方々を示している訳ではありません。
一部の方々だけだと思います。その一部の方々も、個々人は問題であると認識している方が多いと思います。しかし、それぞれが組織の一人として行動している中で、何故かブレーキが利かなくなっているのだと思います。

 

資本市場関係者(特にIPO関係者)は、実質審査的観点から準備段階で上場するに相応しい企業であるか支援対象企業をもっと見極め、NOと言えるだけの選別が出来る時代は来るのでしょうか。悲しいかな、やはり「歴史は繰り返す」のでしょうか。

 

振り返ると2013年の元旦に「健全」と題したブログを書いています。その時に危惧したことが起こっているのだと思えます。そしてその時、末尾に書いたのが「弊社は今年も「健全」な会社の準備指導を通じて、或いは、「健全」な会社になって頂けるように支援し、皆様に慶んで頂けるようにして参りたいと思います。」でした。
この気持ちを変えずに、これからも弊社の役割を果たして参りたいと思います。 

                                   以 上