successIPO (IPO準備会社を応援するブログ)

IPOコンサルタントをしている公認会計士が、IPOを目指している(又はこれから目指す)企業さんやIPO業界関係者の方にとって参考になる情報を提供していきます。

ストックオプション関連(アトリウムの事件)

アトリウム(06年3月ジャスダック上場、06年12月東証一部上場)において、上場前に同社社長に付与したストックオプションに関連する事件(?)がニュースになっていました。

<アトリウム>社長が自社から20億円借金 引当金11億円 (yahooニュース)

記事によると、事件の内容としては、
・04年1、12月にストックオプションを社長に付与。
・06年4月と07年3月に社長が権利行使し計108万株を取得。
 (株式取得代金と含み益部分にかかる税金を、自己資金と金融機関からの借入金で支払)
・08年4月ごろに金融機関からの借入金の返済期限となり、自社株105万株を担保に、自社(アトリウム社)からの融資に借り換え。
 (融資は総額19億8700万円。金利は会社の調達金利に1%未満を上乗せ。担保株の価格は、借入時は1株1096〜1662円)
・その後アトリウム社の株価が急落(08年8月29日には582円)。
 港区にある高橋社長の自宅を追加で担保設定。
・08年8月中間期決算で、監査法人の指摘に従って社長に対する貸付金に貸倒引当金11億円を計上
・決算後、さらに高橋社長が将来受領する退職慰労金にも担保設定。
のような事となっています。

本件の中身について、特にコメントはいたしませんが、
このニュースをご紹介しようと思ったのは、『IPO準備会社におけるストックオプションの設計(税制適格ストックオプション・税制非適格ストックオプション』という論点の説明になるかとの考えからです。

06年4月と07年3月の権利行使の時点で、社長が多額の資金を必要としたのは、権利行使時点で「行使時の株価」と「権利行使価格」の差額部分についての『納税』が必要となったためです。
株式取得代金:約2億円、含み益に対する税金:約20億4000万円
これはキャピタルゲイン課税の原則的な取扱いであり、せっかくストックオプションを付与されていても、権利行使した時点で(売却は予定していなくとも)課税されてしまうので、とてもキビしい課税ルールです
(本件では、2億円の株を取得するのに、その時点での必要資金は22億円ということですから)
さすがに、これだとストックオプションとしての活用がうまく行かないだろうとの配慮で当局が特例として認めているのが『税制適格ストックオプション』であり、定められている制度要件(権利行使期間、権利行使価格、付与時の税務署への届出等々)を満たしていれば、権利行使時点では課税がされず、売却するまで課税が繰り延べられます。
なお、本件(アトリウム社社長向けのストックオプション)の場合には、金額が多額である時点で『税制適格ストックオプション』の適用要件から外れてしまっています(税制適格にはできない内容でした)。
が、上場準備会社さんの中には、『税制適格ストックオプション』にした方が付与者にとってメリットが大きいにもかかわらず、『税制非適格』のストックオプションを付与しているケースや、設計上は『税制適格』の要件を満たしているのに税務署への届出を失念していて『税制非適格』となってしまっているケースが稀に見られます
理由は、多くの場合、ストックオプションの制度設計についての企業側の理解不足であり、そのようなケースを見るととても勿体なく思います。
ということで、現在上場準備中の会社さんへのアドバイスとして申し上げたいのは、ストックオプションなど専門性の高い領域については、頑張って独学で進めることが必ずしもよい進め方とはいえず専門家のチェック・アドバイスを受けることも有益であるということです。
多くの会社さんは、信託銀行さん他のアドバイスを受けてストックオプションを付与しているため問題ありませんが、もしも、ストックオプションを付与済みの上場準備会社さんで、上記の説明文の内容が「???」の場合、税制適格か非適格かを再確認されるとよいかと思います。

ちょっと無理やりかもしれませんが、ニュース事例をIPO準備会社におけるストックオプションの制度設計に絡めてみました。