successIPO (IPO準備会社を応援するブログ)

IPOコンサルタントをしている公認会計士が、IPOを目指している(又はこれから目指す)企業さんやIPO業界関係者の方にとって参考になる情報を提供していきます。

組織体制の整備について(なぜ、組織体制の整備が必要なのか)

上場に向けては、多くの場合、組織体制や人員配置の見直しが必要になります。

『こうしないと審査に通りませんから』を理由に、必要とされた都度、組織体制・人員配置に手を加えていく進め方も行われているようですが、上場準備にあたっては、ある程度は計画的に組織体制・人員配置の見直しを進めていったほうがよいのだろうと思っています。


そのためには、『なぜ上場するために、組織体制や人員配置の見直しが必要になるのか?』についてをしっかり考えることが大切です。

あくまで私の理解ですが、組織関連の見直しが必要になる主な理由は、2点だと思います。
 理由?パブリックカンパニーとしての組織的経営を行うために、管理機能や内部牽制を充実させる
 理由?適切なディスクローズ(開示)を行えるようにする


【理由?について】
このうち、理由?については理解はしやすいと思います。
よくある指摘としても、
 ・管理部門を担当する役員を配置してください。
 ・『社長の部門長兼務』は解消してください。
 ・『横の兼務』は解消してください。
のようなもので、
指摘を受けても、
「本当はそうしなければいけないんだろうけど、これまで少人数でやってきたし、任せられる適任の人材がなかなかいないんだよねぇ」というような感想だと思います。


【理由?について】
こちらをしっかりと説明している書籍等もあまり見たことありませんが、本当はこちらも大切な話だと思います。
「適切なディスクローズ(開示)を行えるようにする」ために、組織を見直すというのは、全然ピンとこないという会社(経営者)さんも多いと思います。

 上場後に、事業の種類別で業績を開示していくことになった場合に、どの区分で開示していくかの議論はできていますでしょうか?

 株主(投資家)は、この会社は複数の事業をやっているようだが『この会社は、どの事業が儲かっているのか?(どの事業で稼いでいるのか?)』とか、『どの事業が伸びているのか?』ということを知りたがります。
 しかも、正確な金額を知りたがるのです。
 法定の開示資料(上場時の有価証券届出書や上場後の有価証券報告書)においてセグメント情報などとして、事業の種類別の売上高や営業利益などを開示することが義務付けられ、また、それ以外にもIR活動などにおいても、事業の種類別などの切り口で数値を使って説明することが求められてきます。
 これに答えられるようにするためにも、実は組織体制がどうなっているのかが大切なのです。
 事業の種類という切り口は、多くの会社の場合、「これだ!」と画一的に決定できるものではなく、ある程度の主観や判断によって変わるものだと思います(同じ状況でも見方によって違う区分が何パターンも思いつくと思います)。
 会社の現在の状況、上場予定時や上場後の中期的な状況を想定し、また、上場企業の中に類似企業がいる場合には、その企業がどのような開示をしているかを検討した上で、わが社はどのような事業区分で開示していくのがいいのだろうかを決めていくことになります。
 また、【経理の状況】におけるセグメント情報としての区分の場合、監査法人さんともその是非を協議しておくことが望まれます。

 「わが社は、組織の区分が、そのまま事業区分ですよ(セグメント区分にも使えますよ)」と言われる会社さんがとても多いですが、その後になって、「この組織区分ではちょっと都合が悪い」となる会社さんもあります(必ずではありませんが)。

 「わが社は、事業はひとつだけなので、セグメントも一つですから大丈夫です」という会社さんについても、【経理の状況】においては区分の必要はないものの、【生産、受注及び販売の状況】において、事業部門等の区分で売上高や受注の状況を開示することになるということをご理解されていないケースも多いようです。

また、組織を直すと、会計単位が変更され、これに伴い、予算や中期経営計画にも影響します。
(会計単位が変更されると、旧単位で作成されていた予算では、うまく予算−実績の統制ができなくなります)


組織を見直すのはとても大変です。
組織を見直したら、人員の配置も変わります。しかも上場のためには、「兼務での対応」というのも限度があります。
十分な人材を確保できず、少人数で何とか運営してきたベンチャー企業さんにとって、言われて急にできるものではないと思います。
上場準備の現場では、証券会社さん等からから、かなりギリギリのタイミングになってから、「組織を見直してください」、「こういう人員を配置してください」のような指摘が行われることがあります。 そのタイミングでの指導が適切な場合も勿論ありますが、中には、「それならもっと早く言って欲しかった」という会社(経営者)さんの声も聞かれます。


できれば避けて頂きたいのは、
 (1) 上場に向けて、「規程づくりが必須」と聞いてまず社内規程を作った(組織についての検討はしない) 
         ↓
 (2) 組織に関する重要規程である「業務分掌規程」や「職務権限規程」についても現状にあてはめて何とか作った
         ↓
 (3) その後、上場準備を本格化させ、事業区分などについて検討を行ったところ組織体制の変更が必要になった
         ↓
 (4) せっかく作った社内規程は大幅な見直しが必要になった
         ↓
 ((5) 最初に、組織についてをもう少し検討しておけばよかった。。。。。。)

となることや、

 (1) 上場に向けて、部門別の予算を作り、予算−実績の差異分析などの管理をするようにした(組織についての検討はしない) 
         ↓
 (2) その後、上場準備を本格化させ、事業区分などについて検討を行ったところ組織体制の変更が必要になった
         ↓
 (3) 集計される部門別の業績について、予算策定時の区分と異なる区分のため、予算−実績の差異分析がうまくできない。
         ↓
 (4) せっかく作った予算は作り直しが必要になった
         ↓
 ((5) 最初に、組織についてをもう少し検討しておけばよかった。。。。。。)

などのような話です。



上場準備は、最初から完璧に進めていくことは不可能かつ非現実的であり、必要の都度軌道修正していきながら進めていくものではありますが、少しでも作業が無駄にならないよう、変な後戻りがないように意識しておくことは大切だと思います。